大豆の利用(豆腐)
わが国で豆腐が中国から伝えられたのは奈良時代から平安時代の頃といわれています。しかし豆腐が普及し始めたのは鎌倉時代以降で、一般庶民の食卓に上るようになったのは江戸時代です。この頃には豆腐を料理する人々が増え、豆腐料理の店が出来、また豆腐料理100種を収録した「豆腐百珍」が刊行されました。
豆腐・油揚げ類に用いられる大豆の量は大豆食品の中で最も多いですが、その大部分はアメリカなどからの輸入大豆です。国産大豆による豆腐は風味、収量共によいといわれていますが、品種が多いため品質にふれが大きい上に価格が高く、使用量は伸び悩んでいます。
豆腐製造の規模は元来は小さいものの設備、器械の省力化、自動化で規模拡大が進んでいます。年間大豆使用量はほぼ一定しているのに業者数が減り、一業者あたりの従業員数が増えているのはこのことを裏付けています。
豆腐の種類と作り方
豆腐には大きく分けて、もめん(木綿)豆腐ときぬ(絹)ごし豆腐とありますが、最近は充填豆腐が市販されています。また、もめん、きぬごしの中間ともいうべきソフト豆腐も地域によっては作られています。これら豆腐はそれぞれ舌ざわり、滑らかさ、あるいは表面、断面の外観の違いとしてはっきり区別されます。そして、その違いは豆乳の濃さとこれに凝固剤を加えて固める方法によるものです。
豆腐製造の基本は大豆から豆乳製造と、豆乳から豆腐製造に分かれます。まず豆乳製造は下のようになっています。
- 大豆→水浸清→磨砕(水挽き)→加水加熱→濾過→豆乳
大豆は精選後、一晩水に浸清すると水を吸って重量で2.2〜2.3倍となります。これを磨砕機で注水しながら粉砕します。この操作を水挽きといい、乾式粉砕に比べて省エネルギーなので豆の粉砕に広く行われる方法です。磨砕物は呉と呼びますが、次にこれにある程度の水を加えて加熱します。加熱は地釜で煮るところもありますが多くの場合、蒸煮釜に蒸気を吹き込む方法によります。
加える水の量は最終的に濾過で得られる豆乳の固形分濃度をどの位にするかで決まります。濃度の濃い豆乳はきぬごし、充填豆腐向けで、もめん豆腐にはもっとうすい豆乳を用います。大豆に加える水の量は、もめん豆腐で大豆の10倍、きぬごし豆腐で6〜7倍、充填豆腐で7〜8倍程度とします。
加熱を終わった磨砕物を濾過するには布袋に入れて圧搾、濾過する方法もありますが、最近は回転する金属製の孔あきロールを通して内側から豆乳を得る方法が広く用いられ、これによると連続操作ができるので濾過効率がよくなります。このほかに遠心分離器も用いられます。濾過によって豆乳とおからが得られます。
おからは大豆1に対し1.3内外で、水分が80%以上残っており、変敗しやすいので乾燥したり、pHを下げて保存性を持たせる必要があります。食用に供される割合は低く、大部分が直接あるいは発酵後家畜飼料か肥料に用いられ、中には焼却されたり、生ゴミとして廃棄されているものもあります。
豆腐は包装容器に表示を行うことが義務づけられており、その内容は、品名、原材料名、量目(内容量)、消費期限、保存方法、製造者名となっています。保存期間の長い充填豆腐では賞味期限とします。
もめん豆腐
もめん豆腐用の豆乳は濾過後桶に移し、温度があまり上がらないうち(70〜80℃)に凝固剤を加えて撹拌し、豆乳とよく混ざるようにします。凝固剤は硫酸カルシウムが多く用いられ、予め少量の水に懸濁させて加えます。上澄みが澄んだらこれを除き、凝固剤を杓子を使って孔のあいた型箱に移します。
型箱には予め布を敷いておき、凝固物を移し終わったら上に竹簀をおいて重石により脱水します。重石を除き、型箱を水槽に移して孔からの水圧により凝固物を押しだし、側面の溝に沿って包丁を入れ、水槽中で流水により冷却し製品とします。大豆10kgに対し水分87%内外のもめん豆腐が45kg内外得られます。なお、凝固剤として塩化マグネシウムまたは海水から得られる「にがり」を用いることもあります。
もめん豆腐は豆乳濃度が低いために凝固物が多少こわされることと、凝固物を何回かに分けて型箱に移すため外観、断面は必ずしも均一ではなく、空隙があったり、細かい凝固物が分離していることがあります。また、もめん豆腐の名は型箱の内側においた布の織り目がそのまま豆腐に着くことによるもので、布目の出ないきぬごし豆腐と区別するためのものといわれています。
きぬごし豆腐
きぬごし豆腐は前述したように豆乳濃度を高め、凝固剤により豆乳全体をゲル状に固めたものです。固形分濃度10%内外の豆乳を70%で、きぬごし用の型箱中に凝固剤と一緒に注ぎ込みます。型箱は底の中央に栓付き孔を一つ具えており、予め金属板を底に敷いておきます。型箱の内側に包丁を入れ、水槽中で底の孔から静かに水を入れると凝固物は水圧で押し出されるから、これを適当な大きさに切り、流水で冷却し、製品とします。
きぬごし豆腐は大豆の大部分が豆腐となるから豆乳の収量が豆腐の収量となります。大豆10kgから6倍加水で得られる豆乳量は、おから量約13kgを差し引いた47kgで、これがきぬごし豆腐の収量ということになります。きぬごし豆腐は豆乳がゲル状に固まったものであるから外観、断面共に均一で、舌ざわりは滑らかです。きぬごしの名はもめん豆腐のように布目が着かないことから来ていますが、絹のような滑らかな舌ざわりということもあるでしょう。いずれにしても絹でこすということではありません。
きぬごし豆腐は、以前「にがり」を用いましたが、凝固反応が硫酸カルシウムより早いためゲル状に固めることが難しく、経験を必要としました。その後、硫酸カルシウムが市販されるようになり広く普及しました。硫酸カルシウムは水に溶けにくく、凝固反応は溶解の進行に伴ってゆっくり行われる結果、ゲル化は円滑に進み、良質の製品ができるようになりました。
近年きぬごし豆腐用凝固剤としてグルコノデルタラクトン(GDL)が開発され、実用化されています。このものは水溶性であるが、常温では中性で、温度が上がると加水分解によりグルコン酸ができ、酸性となります。少量の水に溶かしたGDLを60〜70℃の豆乳に対して0.3〜0.5%程度加えて十分撹拌、しばらくおくと豆乳全体がゲル化します。GDLは投入中でゆっくり加水分解してグルコン酸を生成するので硫酸カルシウム同様、豆乳を均一にゲル化させます。
GDLは過剰に用いるとグルコン酸の酸味を感じるので注意が必要です。GDLは豆乳が均一に凝固する点で評価されていますが、カルシウム塩に比べて風味がやや淡泊なことと粘りが足りないため、最近は硫酸カルシウムと混用されています。そして、もめん豆腐にも一部で用いられています。
充填豆腐
充填豆腐は第二次世界大戦後に開発されたものです。原理はきぬごし豆腐と似ており、濃いめの豆乳をいったん室温まで冷却し、ついで凝固剤と混合後、加熱してゲル状に固めます。豆乳と凝固剤の混合物はプラスチック製角型容器に入れ、熱シールによりフィルムのふたをした上で熱水中デ90℃、50分の加熱を行い、急速冷却して製品とします。充填豆腐は凝固温度をきぬごし豆腐より高くできるので、同一濃度の豆乳ではきぬごし豆腐より固くなります。
充填豆腐は製品に直接手を触れないので他の豆腐に比べて衛生的です。また外部から微生物が侵入するおそれがなく、かつ90℃内外の加熱で病原体は殺菌されている点でも衛生的です。完全殺菌はされていませんが、冷蔵では1週間程度の保存が可能です。
充填式の豆腐で保存性などを重視した方式のものがあります。一つはいわゆるLL(long life)豆腐と呼ばれ、いったん出来上がった豆腐を高温殺菌したもので、加熱条件を誤ると豆腐の風味が損なわれるので注意が必要です。他の一つは無菌充填によるもので、予め高温短時間殺菌した冷却豆乳を無菌室内で凝固剤と一緒に容器に注入、混合し密封、加熱する方式で、凝固剤は予め除菌、容器も殺菌したものを用いる必要があります。両者とも保存性がかなりよく、遠隔地用、輸出用などに供されます。
- 豆乳→凝固剤添加→上澄み除去→型箱入れ→脱水→型箱出し→もめん豆腐
- 豆乳→凝固剤と一緒に型箱入れ→保温→型箱出し→きぬごし豆腐
- 豆乳→冷却→凝固剤混合→容器に充填密封→加熱凝固→冷却→充填豆腐
ソフト豆腐
もめん豆腐ときぬごし豆腐の中間ともいうべきものです。もめん豆腐用の豆乳より高濃度で、きぬごしより低濃度のものを用い、これを桶の中でほぼきぬごし状に凝固させ、上澄みを除かずに杓子を用いて静かにもめん豆腐用の型箱に移し、軽くおしをして製品とします。もめん豆腐ほど不均一でなく、きぬごし豆腐ほど軟らかすぎない豆腐です。
地方によって作り方に多少の違いがあり、例えば桶の代わりにきぬごし用の型箱で凝固させ、これを反転して全体をもめん豆腐用型箱に移す方式、あるいはビニール布を敷いた平らなもめん豆腐用型箱中できぬごし状に凝固させた後ビニール布を速やかに引いて抜いて、そのまま型箱中で軽くおしをして製品とする方式などがあります。
健民豆腐
この名称は第二次世界大戦中に生まれたものですが、その内容は必ずしも明確ではなく、昔から作られていたものを改めて見直すために名付けられたようです。従来、海水からとった「にがり」が凝固剤として使われていたのが、戦時中金属マグネシウムの確保のためと、硫酸カルシウムが凝固剤として十分使える上に日本人の栄養補給にも役立つことからカルシウム塩を用いた豆腐が作られ、これを健民豆腐と呼んだようです。
一方、資源節約のため、おからを除かずに作った豆腐を健民豆腐と言ったともいわれています。この種の豆腐は以前から東北地方などで作られていたので必ずしも戦時中出来たものではありません。また、本来の豆腐のような舌ざわりは具えておりません。
その他の豆腐
- おぼろ豆腐、汲み豆腐
「豆腐百珍」で取り上げていますが、豆乳のにがりを加えて凝固したものを型箱に入れず、上澄みと一緒に汁物などの食用に供するもので、滑らかな舌ざわりと甘味が魅力です。最近プラスチック容器に入れて市販されています。
- ゆし豆腐
沖縄特産の豆腐で、おぼろ豆腐とほぼ同じ方法で作られますが、凝固物はくずして用います。
- 堅豆腐
凝固物を型箱で十分おして水切りした堅い豆腐で、石川県、富山県下で今日でも作られています。この地方では磨砕大豆を加水分解してから濾過する一般的な方法の他に、磨砕大豆を加水濾過してから加熱する方法(生しぼり)があり、地域によっていずれかの方法で作られています。
凍り豆腐
凍り豆腐はわが国独自の食品といわれており、その起源には関西における高野豆腐と信州・東北地方の凍み豆腐があります。いずれも豆腐がたまたま外気で凍結すると解凍後、外観、歯ごたえなど全く違ったものになり、しかも脱水しやすいため容易に乾燥でき、保存可能となったことから広く普及しました。
凍り豆腐製造の基本原理は、堅めに作った豆腐をいったん冷凍させ、−1〜−3℃近辺で長期に保管し、水で解凍後、圧搾、脱水、火力で乾燥、製品とします。保管中に氷の結晶が成長し、たんぱく質は濃縮された形となって分子間の結合が進み、海綿状の組織を形成する結果、脱水が容易となります。
凍り豆腐用の豆腐は凝固剤に塩化カルシウムを用い、出来た凝固物を細かく砕き、上澄みを十分除いてから型箱に移し、圧力をかけて脱水、成型したものを用います。この豆腐の水分は普通の豆腐より数%少なくなっています。一定の大きさに切断した後−10℃前後で急速凍結を行います。
これを−1〜−3℃の低温保管庫に約3週間おき、ついで散水による解凍を行い、脱水、乾燥して製品としますが、この工程も連続方式が普及しています。なお、膨軟加工といって、調理の際によくふくらんでソフトになるように、乾燥前にかん水などに浸清することが行われていますが、これは以前用いられていたアンモニアガス処理が食品衛生上の問題があって中止され、代わって普及した方法です。
油揚げ
油揚げ、生揚げ(厚揚げ)がんもどきが主な揚げ豆腐類になります。それぞれ異なる姿、風味、歯ごたえを持っていますが、これを作り出している作り方について説明したいと思います。共通しているのは主原料が豆腐と揚げ油であることで、それぞれ豆腐の作り方、揚げ温度などに違いがあります。なお、揚げ油はかつて精製不十分のナタネ油が用いられていましたが、このものは色が赤味がかっていたため赤水と呼ばれ、揚げ物の色も強い褐色でした。現在は精製した大豆油、ナタネ油などが用いられ揚げ物の色はずっと淡くなっています。
- 油揚げ
油揚げは多少堅めに作った豆腐を厚さ数mmの長方形に切り、必要ならさらに脱水します。この際、豆腐は大豆の磨砕物の加熱が過ぎないようにするため冷水を加えて急速にある程度温度を下げる必要があります。豆腐は110℃くらいの油で揚げると縦横に膨張し、多孔質となり、厚みも増します。
ついでこれを180〜200℃の油に移すと表面が固くなってしっかりとしたものになります。前段の加熱を「のばし」、後段の加熱を「からし」と呼びます。面積でもとの豆腐の約3倍になりますが、条件を誤ると十分大きくなりません。
油揚げ用の豆腐で加熱が過ぎないように冷水を加えるのは、たんぱく質の結合が強くなりすぎないようにするためといわれますが、また冷水中に溶けている空気が豆腐中に移行し、これが豆腐の膨張に与っているともいわれています。
- 生揚げ
生揚げは普通の豆腐を適当な大きさに切り、最初から200℃くらいの油で揚げたもので、油揚げのように膨張せず、もとの豆腐の姿をそのまま残しています。
- がんもどき
がんもどきは豆腐をくずして水を切り、十分練り、さらにニンジン、ゴボウ、コンブ、ゴマを、すりつぶしたヤマノイモと一緒に加え、よく混ぜ、円盤状に成型し、これを油揚げ同様2段階揚げしたものです。がんもどきの名は雁の肉に似せたものの意で、菜食の仏僧が鳥肉のように歯ごたえのあるものへの欲求から考え出したといわれています。